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1  アラスティア城地下

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「殿下〜っ!?殿下、どこですかーっ……全く、どこ行ったんだあのガキ……」

 

聞こえてるぞ、と思いながら僕は彼の視線を避け、すぐ横の廊下の暗がりに身を潜めた。悪いけど、捕まるわけにはいかないんだ。今日こそ、この城の秘密の部屋を暴いてみせるんだから。

 

「ロウソクはここに刺して……よし、ついた」

 

廊下の灯りから火を拝借して、少し大きめのロウソクに火を灯した。暗がりの先を小さな灯りで照らすと、地下に続く階段が現れる。前に隙を見て探検した時に見つけたものだ。

その時は灯りがなかったので断念したけど、今回はちゃんと準備をしてきたから大丈夫。

それでも、階段の下の方までは灯りが届かず、先がどうなってるのかは分からなかった。

「…………」

僕はごくりと息を飲んで、階段をゆっくり降り始める。古い石の階段はかび臭くてひび割れていたけれど、壊れてはいないようだった。

 

「殿下〜!?どこですかーっ」

「!」

 

それほど長くない階段を全部降りきったあたりで、僕を探す声が響いてきた。僕にいつも着いて回ってくる、お付の騎士のカイザルの声。カイザルのことは嫌いじゃないけれど、今はその聞きなれた声もうざったく感じた。

僕はランプの灯りで気付かれると思い、とりあえず近くにあった扉を開けてすべりこんだ。

 

「うっ……けほっ」

ホコリっぽい空気を一気に吸い込んでしまい、僕は咳き込んだ。舞い上がったホコリはロウソクの光を受けて、キラキラと床へ落ちていく。僕は床のホコリを払ってから、ため息をついて座り込んだ。

「はぁ、しつこいなぁ……」

小声でぼやきながら、捕まったら訪れるだろう教科書の山を思い浮かべてげんなりした。

毎日毎日部屋で勉強ばかり。子どものうちから勉強が大切ですよと大人たちは言うけれど、城の外の子どもは勉強なんてしていないと聞くし、勉強は3つ年上のガリ勉兄上に任せておけばいいんじゃないかと思う。僕は外で走ったり、こうして探検しているほうが好きなんだから。

上がった息が整ってきたので、僕は部屋の中を見回した。城の地下にこっそりあっただけあって、誰も入ってこない部屋みたいだ。ホコリまみれの家具や調度品が床に転がっている。物置……というよりゴミ捨て場みたいだった。

 

かちっ……

 

「ん?」

ふと、床を探っていた僕の手に冷たい何かが当たった。拾って灯りにかざすと、僕の手と同じくらいの金属の物体で、ネックレスのような長い鎖が繋がっている。

「なんだろうこれ、ペンダントにしては大きいし…」

それに、なんだろう。鈍い光を反射するその物体を見ていると、なんだか胸がどきどきした。表面には何かが彫られている。僕は少し震える手で表面の汚れを擦ってみた。

「これって……!」

彫られていたのは翼をたたみ、降り立とうとしている竜の横顔の姿。この城の、王家の家紋に使われているものと瓜二つだった。元を辿れば、この国を興した初代国王が好んでいた紋様……王をこの島に導いた神竜の紋様だ。

……って、昨日勉強させられた所に書いてあった気がする。

しげしげとひっくり返したりしながら見ていると、「それ」についた突起がぐらぐらしていることに気付いた。その突起をなんとなく、指でぐっと押してみた瞬間。

 

かぱっ!!

 

「うわっ!?」

 

「それ」は突然、弾かれたみたいに開いた。開いた、と思ったのは「それ」が蓋を開けた箱のように思えたからだった。箱の中は暗くてよく分からなかったけれど、もう一枚、ガラスの蓋を隔てた中に細い棒のようなものが何本かあり、1本だけカチカチと音をたてながら動いている。

「……えーっと……」

なんだっけ……何かで見た事があるような。前に読んだ本で……。

「殿下!?ちょっと、どうかされましたかっ!!?」

「あっ……」

カイザルの切羽詰まった声と共に、真っ暗な部屋の扉が開いた。僕の驚いた声を聞きつけたみたいだ。カイザルの手にあるランプに顔を照らされて、僕は眩しさに目をつむる。

「ご無事……みたいっすね。あーあーそんなホコリまみれになって……ん?なんすかそれ」

「なんでもないっ」

鎖が繋がった「それ」を見とがめられて、咄嗟にポケットに隠した。カイザルはあまり興味無さそうにふーん、と鼻を鳴らす。

 

このカイザルは僕のお目付け役?を命じられた騎士で、代々が騎士をしている由緒正しい家柄の人らしい。その割には、なんというか適当な人物だった。

僕に聞こえるように文句を言ったりする辺り、ふてぶてしいだけなのかもしれない。

そんな性格と、僕がもっと小さい頃からお目付け役として傍にいたのもあって、カイザルには他の騎士よりも親しみを感じていた。ちょっと前に「なくなった」母上よりも長い時間、一緒にいる気がする。

だけど信頼が置けるのと、このお宝を見せるのとは話が別だ。一緒にいる分、僕はカイザルの性格を分かっているつもりだった。

 

彼は、基本的に僕をからかって遊ぶのが大好きなんだ。

 

「……だから、殿下はもうちょっとお作法とかそういうのをですね……って、どこ行くんすか」

「図書室!調べたいことがあるんだ、着いてこなくていいぞ!」

逃げるようにカイザルの横をすり抜けて、僕は階段のほうへ走り出した。ポケットに隠したこれが何かは分からないけど、彼に見せたらどうせ面白がって取り上げるはずだ。

 

「んな事言って、また逃げるつもりでしょーが!」

カイザルのそんな疑いももっともだったけれど、調べたいことがあるのは本当だった。お宝の正体を確かめなくちゃいけない。カイザル含め、ほかの人に見つかる前に。

 

でも、このままだと図書室じゃなくてお勉強部屋に連れていかれそうだ。それなら…

「じゃあ見張るついでにカイザルも手伝ってよ。歴史書が見たいんだけど多分僕じゃ分からないから」

僕がそう提案すると、えぇーっとカイザルは大人げない声をあげた。

「それを分かるためにさっきまでお勉強してたんでしょうが……オレよか、勉強教えてる先生に聞けばいいんじゃないすか」

 

それは嫌だ。

 

確かに先生なら僕の疑問にもすぐ答えてくれるかもしれないけど、変に勘ぐられるだろう。それよりは、あまりそういう事に興味がなさそうなカイザルに聞いたほうがボロが出ないと思った。大体、あの先生は美人だけど目付きが怖くて苦手だ。

 

「じゃあいいよ!僕は先に行ってるからね!!」

「あっ…ちょっと殿下!!」

 

勢いで誤魔化して、僕は城の図書室に向かって走り出した。

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